第一章
二、 纏絲による螺旋運動の作用

  練習の時に手が真っ直ぐ伸び縮みし手のひらを翻さない、前弓後座(前足を弓なりにし後ろ足に座り込む、後ろ重心の弓歩)の状態をとっているが左右の回転を伴わない等の場合、“頂抗(向かってくる力に対して真正面からの力で対抗する)”の状態となってしまう(図2)。この欠点を解消する為には、かならず螺旋の勁を使わなければならない。なぜなら螺旋のねじれ半径は変化するため、どのような圧力もこの螺旋の柱の上では自然にその廻旋と落空(対抗する力が突然無くなりバランスを失った状態?)によってその圧力が化(霧消)されてしまう。これは科学的な化勁の方法である。図3でその作用がお分かり頂けると思う。

  太極拳における螺旋の纏絲は“太極”拳という名称の由来である。このような螺旋を描く運動は世界的にも珍しい。スポーツ訓練においてはそれが全身の節々を連ならせ(①節節貫串、太極拳の5つ目の特徴)て動作を推進させることにより、内外が一つに合わさり一つが動けば動かないところが無いという境地に入っていくのである。これはまた内臓器官に一種のマッサージ作用をもたらすと同時に外部に現れる神気にうねりを生じさせて大脳皮質を強化し、それによって更に全身の全ての組織や器官を強くすることができるのである。
  次に、攻防においては纏絲勁の作用も大きい。太極拳の攻防の核心は‘知己知彼(己を知り敵を知る)“ことと”知機知勢(チャンスの瞬間と状態を把握すること)“が達成された懂勁(勁を理解している)の功夫である。懂勁は二種類に分かれる。一つ目は自分自身の勁に関すること、つまり自己の動作における勁について理解しているということであり、これは型を練習することにより体得することができる。二つ目は人に対する勁の理解、つまり敵の勁がわかるということであり、これは推手の修練によって体得されなければならない。敵を知りたければその前に自分を知ることが必要不可欠であり、これは物事を認識する為に必要な過程である。”自分を知る“という高いレベルの型を行えるようになるには、周身一家(身体の各部位がばらばらではなく一つに纏まった状態)の功夫を身につけなければならない。周身一家の功夫は内外が合わさり節々が連環した動きの中で達成されるもので、この両者はどちらも螺旋の纏絲動作から生み出されるのである。よって攻防において纏絲勁の重要性は特別であるといえる。
 
 図2
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